銀行が取り組むブロックチェーン技術の応用
デジタル通貨への見解は様々ですが、ブロックチェーン技術については注目している銀行は多く、研究・開発が進んでいます。
将来、ブロックチェーンによる制度の変革で銀行はなくなるの?
現在、世界の人口は約73億人いますが、その約3分の1にあたる約24億人が、銀行口座を持てない人たちと言われています。これまで彼らは銀行を介した送金や口座への貯金ができませんでしたが、ビットコインはそれらの利用を可能にする救世主になり得るかもしれません。
つまり、銀行口座を持っていなくてもお金という価値をダイレクトに送金でき、価値の貯蔵もウォレット(財布)で行えるのです。これを受け、「将来的に銀行はいらなくなるのではないか?」という話も聞くようになりました。
しかし、当の銀行側もブロックチェーンに着目し、自分たちの生き残りを賭けています。みずほ銀行は、富士通、富士通研究所と2016年3月に、国境を超えて証券を取引する「証券クロスボーダー取引」にブロックチェーン技術を適用することで証券取引の決済にかかる時間を短縮する実証実験を行ったと発表しました。
また、海外でも研究開発が進んでいます。アメリカのフィンテックを扱うベンチャー企業R3CEVが率いるコンソーシアムには日本のメガバンク3行のほか、野村やSBIホールディングス、トヨタファイナンシャルサービスなどが参加しています。
R3CEVは、金融機関での利用を想定したブロックチェーン(厳密にはブロックチェーンとは異なる分散レッジャー)の開発を行っています。ブロックチェーンは、従来の金融システムのアンチテーゼとして生まれましたが、現在では、銀行がその技術に注目し、研究開発に躍起になっています。
デジタル通貨の発行?各国中央銀行の取り組み
ブロックチェーンは各国の中央銀行も注目しています。たとえばイングランド銀行は、「実際に中央銀行がデジタル通貨を発行するのは、しばらく先のことになる」としつつも「銀行決済システムにおいては、ブロックチェーン技術の有用性は計り知れない」とブロックチェーンを高く評価して、研究が進められています。
また、中央銀行が独自のデジタル通貨を発行する動きも見られます。スウェーデン国立銀行は、デジタル通貨について検討するプロジェクトを立ち上げました。スウェーデンでは、もともと流通している紙幣と貨幣が2009年から約40%も減少しており、この変化に応じてデジタル通貨の検討を迫られていました。
さらにオランダの中央銀行はブロックチェーンを用いた暗号通貨のプロトタイプであるDNBCoinの開発に取り組んでおり、カナダでは、CAD-Coinという名のコインを発行するとしています。
さらに、シンガポールの中央銀行(金融通貨庁)は、日本の三菱UFJフィナンシャル・グループやアメリカの銀行、シンガポール取引所などと24時間対応の送金サービスを行う実証実験を始めています。
中国でも中国人民銀行が独自のデジタル通貨を作る計画を発表しているほか、カナダやオランダの中央銀行も似た試みを始めています。日本銀行も、欧州中央銀行と共同でブロックチェーンの研究に取り組んでいます。
いずれもブロックチェーン技術を使って現金による犯罪リスクを軽減させ、徴税を確実なものとし、かつ金融政策を徹底させることなどが主目的と見られています。
メガバンクで起こる仮想通貨発行の動き
銀行はビットコインなどの仮想通貨の台頭を、従来のビジネスモデルへの脅威、つまり自身の存在意義すら問われると危機感を募らせていますが、同時にこの状況をチャンスとも捉えているようです。
自ら独自の仮想通貨の発行をすることで、身の存在意義を示すことができ、さらにそれがビジネスチャンスの拡大へとつながるとの期待を寄せているのかもしれません。たとえば銀行が仮想通貨であるコインを発行することで、いつでも送金が短時間でできるようになり、また、送金手数料を抑えることなどが可能になると予想されます。
これらにより顧客サービスの向上を図ることができそうです。2017年5月、三菱東京UFJ銀行では独自の仮想通貨である「MUFGコイン」の実証実験を段階的に開始し、翌2018年度中には一般向けに発行する方針を固めています。
さらに、みずほフィナンシャルグループも日本IBMと組み、仮想通貨「みずほマネー」の開発を発表しました。みずほフィナンシャルグループでは今後、利用者同士がスマートフォンを通じて通貨のやり取りができる、新たな決済サービスなどに活用できないかを検討しています。
また、仮想通貨の発行だけでなくブロックチェーン技術の利用も期待されます。現在、メガバンクではサーバーの設置運用などに莫大なコストがかかっていますが、この従来型の中央集権型システムからブロックチェーン技術を土台とするシステム構築へと代替することにより、大きなコストの削減につながる可能性があり、こちらも顧客サービスの向上へとつながることが期待できます。
メガバンクとは異なる地銀のブロックチェーン技術の応用
地方銀行(地銀)でも中央銀行やメガバンクのブロックチェーン技術の研究開発への動きを無視できない状況となっています。横浜銀行などの地銀やネット銀行など47行は企業共同体「国内外為替の一元化検討に関するコンソーシアム」を組織し、ブロックチェーン技術を応用する24時間送金の新システム構築を目指しています。
この新システムはアメリカのリップルラボが開発した決済システムを日本向けにカスタマイズしたもので、実現すると24時間365日の決済や割安な手数料での送金が可能になります。また、手数料が下がることにより、小口の決済もやりやすくなります。
2017年中の稼働を目指しています。また、静岡銀行は、マネックスグループ、富士市の吉原商店街振興組合などとともに、ブロックチェーン技術を用いた地域活性化の実証実験を行っています。
ブロックチェーン技術を応用したお買い物補助ポイントサービス「NeCoban」は、スマートフォン上のウォレットに配信されるポイント型クーポンを流通させ、地域の商店街などでの購買促進に結び付けるサービスです。
ブロックチェーン技術を商店街の地域クーポンとして活用する事例は全国初の取り組みです。具体的には1,000円の商品が、クーポンを利用することで900円で購入できるような形を想定しています。とくに地方銀行は地域密着という強みがあります。
地域通貨を発行することで、地域の経済圏の維持や活性化のための仕組みが多様化し、もっと地域経済の発展に寄与することが期待されています。